弁護士・弁理士 稲井 要介
東京弁護士会、日本弁理士会
この記事の執筆者:弁護士・弁理士 稲井 要介
東京都出身。東京工業大学大学院修士課程修了。大手素材メーカーにて製造・開発・知財業務に携わり、並行して弁理士、弁護士資格を取得。2025年8月に稲井法律特許事務所を開設。知的財産、企業法務などの業務に従事している。
取適法(改正下請法)の主な改正事項(規制の見直し)は、以下のとおりです。
- ①運送委託の対象取引への追加(物流問題への対応)
- ②従業員基準の規模要件への追加(下請法逃れ等への対応)
- ③手形払等の禁止 → 支払遅延に該当
- ④協議に応じない一方的な代金決定の禁止(価格据え置き取引への対応)
- ⑤面的執行の強化
本コラムでは、委託事業者の義務、及び委託事業者の禁止行為(上記③~⑤が関連)について解説します。
委託事業者の義務
取適法でも、対象取引の委託事業者には以下の4つの義務が課せられます。
- 発注内容を明示する義務(発注書の交付)
→改正により、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、必要的記載事項を電磁的方法(例:電子メール)により提供可能となります。 - 取引に関する書類等を作成・保存する義務(2年)
- 支払期日(受領後60日以内)を定める義務
- 遅延利息(14.6%)の支払義務
→改正により、中小受託事業者に責任がないのに、委託事業者が製造委託等代金の額を減じた場合、減じた額に対して遅延利息を支払う義務が追加されました。
委託事業者の禁止行為
取適法では、対象取引の委託事業者による以下の11項目の行為が禁止されます。
「⑪協議に応じない一方的な代金決定」は、新たに追加された禁止行為です。
- ①受領拒否
- ②代金の支払遅延
→改正により、(A)手形払や、(B)電子記録債権やファクタリングについて、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものの使用も、支払遅延に該当し、禁止されます。 - ③代金の減額
- ④返品
- ⑤買いたたき
- ⑥購入・利用強制
- ⑦報復措置
→改正により、面的執行の強化のため、事業所管省庁の主務大臣に委託事業者に対する指導・助言権限が付与されるとともに、「報復措置の禁止」の申告先として、現行の公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣が追加されました。 - ⑧有償支給原材料等の対価の早期決済
- ⑨不当な経済上の利益の提供要請
- ⑩不当な給付内容の変更・やり直し
- ⑪協議に応じない一方的な代金決定
「⑪協議に応じない一方的な代金決定」について
委託事業者が、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること。
「決定」には、代金を引き上げ、又は引き下げることのほか、据え置くことも含まれます。
違反行為想定事例
例1 運送会社 → 運送会社
中小受託事業者が代金の額の引上げについて協議を求めたにもかかわらず、これを無視し、拒否し、又は回答を引き延ばすなどにより、協議に応じなかった。
例2 機械メーカー → 部品メーカー
委託事業者が代金の額の引下げを要請する場合において、中小受託事業者がその説明を求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、代金の額を引き下げた。
「⑤買いたたき」との関係
現行下請法でも規定されている「⑤買いたたき」(通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定めること)の禁止は、適切な価格転嫁が行われるための規制として機能してきました。
しかしながら、委託事業者が次のような方法で代金の額を定めることは、「⑤買いたたき」に該当するおそれがあるにとどまります。
そこで、取適法では、適切な価格転嫁が行われる取引環境の整備を目的として、交渉プロセスに着目した「⑪協議に応じない一方的な代金決定」の禁止が新設されました。
なお、公正取引委員会HPの下請法勧告一覧において、「⑤買いたたき」に該当すると認定されたのは、令和5年度が全勧告13件のうち1件、令和6年度が全勧告21件のうち1件、令和7年度が全勧告16件のうち0件(2025年10月24日現在)にとどまることからも、「⑤買いたたき」に該当すると認定するのにハードルがあることがうかがえます。


