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フリーランス法(1) 発注事業者の義務

弁護士・弁理士 稲井 要介

弁護士・弁理士 稲井 要介

東京弁護士会、日本弁理士会

この記事の執筆者:弁護士・弁理士 稲井 要介

東京都出身。東京工業大学大学院修士課程修了。大手素材メーカーにて製造・開発・知財業務に携わり、並行して弁理士、弁護士資格を取得。2025年8月に稲井法律特許事務所を開設。知的財産、企業法務などの業務に従事している。

2024年11月1日にフリーランス法が施行されてから、公正取引委員会により、光文社、小学館、島村楽器に続き、2025年9月に九州東通への勧告がなされました。

参考(外部サイト)

発注事業者(特定業務委託事業者)には、取引適正化のため、以下の義務が課されます。

  1. 取引条件の明示義務
  2. 期日における報酬支払義務

さらに、1か月以上の期間行う業務を委託する場合、以下の7つの行為が禁止されます。

  • 受領拒否
  • 報酬の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用強制
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更・やり直し

九州東通への勧告は、これまでの3社への勧告と同様に、九州東通が➊取引条件の明示義務及び➋期日における報酬支払義務に違反したことを理由とするものです。

なお、島村楽器への勧告では、同社がフリーランスに対して音楽教室の体験レッスンを無償で行わせていたことが、禁止行為である「不当な経済上の利益の提供要請」に該当することも認定されました。

参考(外部サイト)

フリーランスの定義

発注先がフリーランス法上の特定受託事業者でなければ、同法は適用されません。

特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の①、②のいずれかに該当するものをいいます。

  1. 個人であって、従業員を使用しないもの
  2. 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

従業員を使用とは、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することです。例えば、発注先が1日8時間、週3日間勤務のパートタイム労働者を使用している場合、発注先は従業員を使用しており、フリーランス法上の特定受託事業者に該当しません。

なお、事業に同居親族のみを使用している場合は、従業員を使用しないものになります。

➊取引条件の明示義務

発注事業者は、フリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに取引の条件を書面(例:契約書、発注書)または電磁的方法(例:電子メール)により、以下の項目を明示しなければなりません。

  1. 発注事業者およびフリーランスの名称
  2. 業務委託をした日
  3. フリーランスの給付の内容
     →品目、品種、数量(回数)、規格、仕様などを明確に記載する
  4. 給付を受領または役務の提供を受ける期日
  5. 給付を受領または役務の提供を受ける場所
  6. 検査を完了する期日
  7. 報酬の額および支払期日
     →フリーランスの知的財産権の譲渡・許諾がある場合、その対価を報酬に加える
  8. 支払方法に関すること

➋期日における報酬支払義務

発注事業者は、発注した給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければなりません。

支払期日を定めないと、支払期日は物品等を実際に受領した日になり、受領日に支払わないと、報酬支払義務違反となります。

支払期日の記載例

○ (良い例)
●月●日支払
毎月●日締切、翌月●日支払
× (違反例)
●月●日まで
●●日以内
「まで」「以内」という記載は、いつが支払期日なのか具体的な日を特定できない

島村楽器への勧告では、支払期日を「毎月末日締切、翌々月10日支払」と定めたことが、役務の提供を受けた日から起算して60日を超える期日に定めたと認定され、報酬支払義務違反となりました。

なお、支払期日を「毎月末日締切、翌月末日支払」と定めた場合、7月1日に給付を受領し、8月31日に支払うと、給付を受領した日から60日超となり、報酬支払義務違反となるように思われますが、公正取引委員会は、「受領した後60日以内」を「受領した後2か月以内」として運用するため、同義務違反になりません。

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